デジタル・トランスフォーメーション

これまで、この手の施策は特に日本では目立った成功を収めていないイメージだが、その詳細を何もしらないから色々調べてみた。デジタルの未来、マッキンゼーの予測する未来、デジタル・シフト、あたりはよく読んだ。

この言葉、SIerにいたときによく聞いたが、今は全く聞かない。
デジタル・トランスフォーメーションという言葉を使うのは、多くの場合テクノロジー企業ではない。使うのは、別の事業を行っている企業(ないしそのような企業にITサービスを提供する企業)だ。

この言葉の利用シーンは曖昧だ。wikipediaによれば、

ビジネス用語としては解釈が多義的ではあるものの、概ね「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられる。

とのこと。 とすると、事業活動は歴史を見てもデジタルトランスフォーメーションの連続であって、特段今が特別なわけではないわけだが、一般によく使われる文脈は「既に事業を持つ企業が、デジタルを取り入れることで振興企業にとって変わられるリスクを回避する」というのがしっくり来る。

そのために、大企業はデジタルトランスフォーメーションをすすめるために最近はデジタル専用の部署をつくり、コワーキングスペースで働いたりしている。

印象からして、過去に似たような雰囲気を持っていたのは、大企業の社員のシリコンバレー駐在だろう。 これは、下記のような批判があった。

ありがちな「社長直轄の新規事業開発部」は、そこに配属される人たちが典型的なサラリーマンばかりなので、なかなかうまく行きません。私はしばしば、そんな新規事業開発部に配属された人から、「何かアイデアをいただけませんか?」と相談されますが、私から見れば、そもそも「こんなものを作りたい!」という熱い思いを持っていない人を新規事業開発部に配属した時点で、失敗が決まっています。

もう一つのダメな例が「形だけのシリコンバレー・オフィス」です。「イノベーションを起こすにはシリコンバレーの人材との交流が必要」という気持ちでオフィスを開設するのでしょうが、日本の典型的なサラリーマンを、シリコンバレー・オフィスに駐在させたところで、本当の意味での「シリコンバレーの空気」に触れることは出来ません。

昔は「そうだよなあ」と思ったものだが、そもそも、デジタル・トランスフォーメーションを行うのは既存の事業会社なので、必ずしもテクノロジー企業のマネをする必要はないはずであって、つまりシリコンバレーのマネをする必要はない。

カーゴベルト

カーゴベルトっていうのはファインマンが言った比喩で、

第二次世界大戦中、米国の飛行機は定期的にサモア島に着陸して、コーラやタバコ、チョコレートを島民に提供していた。しかし、終戦とともに飛行機は来なくなった。
落胆した人々はカルト的行動をとった。木で飛行機を作り、竹で無線機を作って動き回ったのである。当然再度飛行機が来ることはなかった。島民は、飛行機が素晴らしいものを運んでくる、ということは理解していたけれど、正しく解決策を見つけることができなかったのだ。

なんとなく感じるのは、これだ。デジタルの未来によれば、この典型的な罠は3つに分類出きる。

スタートアップの真似

本社から切り離して新しくデジタル組織を組閣し、小さな会社を作る。 よくベンチャーモックと揶揄される。

シュガーコーディング

デジタル機会を手当たりしだい導入していく。意味もなくSNSを導入し交流を図らせたり、「データには価値がある」としてバリューチェーンを無駄に記録したりする

自動化

事業そのものの価値を向上させるのではなく、RPAによる自動化など、過度の効率化のみに焦点を当てる

まさに今は上記に陥っているなあという感じだが、何かが問題なのではなく、このタイミングでは必然だと思う。

やるべきこと

イノベーションはそうそう起きるものではなく、しかも企業においてはイノベーションのジレンマが働くので、さらなるハンディキャップを抱えているに等しい。

いくつか本を見ても、「リーダーシップを持ってデジタルを推し進める」的なことが書いてあるけれど、そんなものが個人に存在するとは思えない。
デジタルでは、先行者利益が極めて大きいため、これを欲して既存事業にイノベーションを、という文脈でデジタルが語られるが、違うと思った。巨大化した事業のエンジニアリングというのは職人技であり新参者が引き継ぐべきものではない。

だからといって、できる部分からやろうとすると、先述のカーゴベルトに陥る。 ではどうするかというと、自社固有のリソースを洗い出し、リスクは低いけど可能性のある新しい事業を多数実行する、のが現段階では最適解に思える。これは「コールオプションの買い」のようなものであって、失敗してもその事業が潰れるだけだが、成功すれば多大な利益を得られる。

これはつまり、既存の主力事業がスタートアップにとって変わられる可能性には目をつむることを意味する。今の自分が徐々に死んでいくのは仕方ないけど、経験は生きる。

それにしても、この手のことを考えて、効果的に動くのは苦手だ。多分、自分のポジションを認識するのが下手なんだと思う。考えるべきことを考えるのは苦手で、考えたいことに意識が持っていかれてしまう。